【要約・感想】対人支援に活かす ネガティブ・ケイパビリティ

目次

読書レポート

なぜ今、「答えを出さない力」が重要なのか?

情報にあふれ、何事にも「タイパ」が求められる現代。私たちはつい、どんな問題にも素早く、分かりやすい「答え」を求めてしまいがち。

そんな時代に「あえて答えを出さない」ことの価値を教えてくれる、まさにタイムリーな一冊が、田中稔哉さんの『あえて答えを出さず、そこに踏みとどまる力——保留状態維持力 対人支援に活かす ネガティブ・ケイパビリティ』である。

最近、仕事でもプライベートでも、何でもすぐに答えを求められる。でも、この本が教えてくれるのは、その真逆ともいえるスキル。

この記事の結論を先に言ってしまうと、予測不可能で複雑な現代社会(VUCAの社会)を生き抜くために、「ネガティブ・ケイパビリティ」——つまり、答えを急がずに不確実な状況に耐える能力——が、これまで以上に価値あるスキルになっている、ということ。

本書の「はじめに」では、主な読者として教育や医療、福祉といった「対人支援」の専門職や、部下を指導するマネージャーが挙げられている。

これ、複雑な人間関係や先の見えない社会に悩むすべての人にとって、ものすごく大切なスキルだと思う。

その「ネガティブ・ケイパビリティ」、一体どんな力なのか。

情報にあふれ、何事にも「タイパ」が求められる現代。私たちはつい、どんな問題にも素早く、分かりやすい「答え」を求めてしまいがち。

そんな時代に「あえて答えを出さない」ことの価値を教えてくれる、まさにタイムリーな一冊が、田中稔哉さんの『あえて答えを出さず、そこに踏みとどまる力——保留状態維持力 対人支援に活かす ネガティブ・ケイパビリティ』である。

最近、仕事でもプライベートでも、何でもすぐに答えを求められる。でも、この本が教えてくれるのは、その真逆ともいえるスキル。

この記事の結論を先に言ってしまうと、予測不可能で複雑な現代社会(VUCAの社会)を生き抜くために、「ネガティブ・ケイパビリティ」——つまり、答えを急がずに不確実な状況に耐える能力——が、これまで以上に価値あるスキルになっている、ということ。

本書の「はじめに」では、主な読者として教育や医療、福祉といった「対人支援」の専門職や、部下を指導するマネージャーが挙げられている。

これ、複雑な人間関係や先の見えない社会に悩むすべての人にとって、ものすごく大切なスキルだと思う。

その「ネガティブ・ケイパビリティ」、一体どんな力なのか。

「ネガティブ・ケイパビリティ」って一体何?

このスキルの正体を探ることで、その真価が見えてくるはず。

「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉は、もともと1817年にイギリスの詩人ジョン・キーツが、文豪シェイクスピアの類まれなる才能を表現するために作った造語だそうだ。

この詩的な概念は100年以上眠っていたが、後にイギリスの精神分析医ウィルフレッド・ビオンが精神科診療に必要な力として取り上げたことで、再び注目されることに。

芸術論から、人の心を扱う実践的なスキルへと進化した形。

ざっくりまとめると、これは「答えを急いで見つけようとせず、わからなさの中に留まっていられる力」、そして「自分の考えや気持ちを一旦消して、他者の視点に立って共感できる力」のこと。

本書によれば、この力は4つの要素に分解できる。

  • 答えを急いで求めないこと
  • わからない状態に留まること
  • 自分の考えや気持ちを消すこと
  • 他者の中に入って共感すること

この力と対照的なのが、本書で「ポジティブ・ケイパビリティ」と呼ばれるスキル。既にある知識やデータ、マニュアルを使って、効率的・合理的に問題を解決する力のこと。

もちろん、この力も社会で生きていく上で絶対に必要。

これ、まるで車のアクセルとブレーキに例えられる。スピードを出すアクセル(ポジティブ・ケイパビリティ)も大事だけど、状況に応じて適切に停止し、周りを見渡すためのブレーキ(ネガティブ・ケイパビリティ)も同じくらい重要。

ノーベル賞経済学者のダニエル・カーネマンが言う、直感的な「ファスト思考」とじっくり考える「スロー思考」の関係にも似ている。

本書は、私たちがついアクセルを踏みがちな現代だからこそ、ブレーキをかける勇気の大切さを教えてくれている。

そういう力のこと。で、なぜ今、この力が特に注目されているのか。

なぜ今、このスキルが私たちに必要なのか?

この「ネガティブ・ケイパビリティ」という、ちょっと抽象的な概念の真価は、私たちが日々直面しているリアルな課題と結びつけてみることで、よりハッキリと見えてくる。

本書の第2章「ネガティブ・ケイパビリティが必要になっている時代背景」をヒントに、いくつか具体例を見ていこう。

多様性の尊重が求められる社会で

「多様性が大事」、今や当たり前のように聞く言葉。でも、いろんな価値観や意見を持つ人が集まれば、当然、簡単には答えが出ないし、時には意見がぶつかることもある。

そういう時、つい多数決で決めたり、声の大きい人の意見に流されたりしがち。

でも、本書が教えてくれるのは、そんな時こそ安易な「答え」に飛びつかず、あえて結論を出さずに葛藤の中に留まる力が試される、ということ。

異なる意見の間に身を置き、じっくり対話を続けることで、誰もが思いつかなかった第三の道が見つかるかもしれない。

未曾有の事態、新型コロナウィルス禍で

私たちが経験した新型コロナウィルスのパンデミックは、まさにネガティブ・ケイパビリティが求められた最たる例かもしれない。

特効薬も確実な情報もない。状況は刻一刻と変わり、専門家の間でも意見が分かれる。

私たちは、そんな「明確な答えがない」不安な状況の中で、ただ耐え、「自分はどうすべきか」を考え続けなければならなかった。

性急に一つの答えに飛びつくのではなく、不確実な状況に踏みとどまり、試行錯誤を続ける力が、私たち一人ひとりに求められた。

AI(人工知能)の技術革新が進む中で

ChatGPTのようなAIは、膨大なデータから最適解を導き出すのが驚くほど得意。既存の知識やデータのパターンに基づく問題解決なら、もはや人間は太刀打ちできないかもしれない。

でも、本書はこう問いかける。予測不能な人間の感情が絡むような、一人ひとり事情が違う問題に、AIは答えを出せるのか、と。

AIはビッグデータからパターンを見つける達人だけど、そのデータにない「外れ値(outlier)」を扱うのは苦手。そして、人の感情は、その人固有で二度と再現できない「外れ値」そのもの。

そんな曖昧で、複雑で、矛盾をはらんだ状況に耐え、相手の気持ちに寄り添いながら考え続けること。これこそが、AI時代にますます価値を高める、人間にしかできないこと。

こういう複雑な社会で生きる僕たち全員に必要な力だけど、特にこの本が焦点を当てているのが、人と深く関わる「対人支援」の世界。

この本が、私たちに教えてくれること

この本が提唱しているのは、常に即座の単純な答えを求める現代の風潮からの、大きな「思考の転換」だと思う。

簡単に言うと、書籍『あえて答えを出さず、そこに踏みとどまる力』は、複雑な世界を生き抜き、人間関係を豊かにし、より深い理解を育むための必須スキルとして「ネガティブ・ケイパビリティ」を紹介している一冊。

この力は、「思考停止」や「先送り」といった消極的な姿勢とは全く違う。むしろ、それは問題解決から逃げるのではなく、問題解決に至るための、より積極的で、よりタフな「アプローチ方法の違い」である。

安易な結論に飛びついて思考を止めてしまう誘惑に耐え、より本質的な理解や創造的な解決策が生まれるまで、問題と共にあり続けるための知的な「強さ」と言えるだろう。

答えを急がない勇気の先にこそ、AIには見つけられない発見や、人との本当のつながりが待っている。その可能性を信じて、答えのない場所にあと少しだけ、踏みとどまってみる価値はあるかもしれない。

文章チェック

・また、ハイデガーは、「待つ」という姿勢について、何かを期待して待つのではなく、すべての執着(予測)を捨て、ただ純粋に待つべきだとも主張しています。これも⽀援職が⽀援対象者に向ける「待つ」という姿勢に通じるものがあります。

・世界的な目標であるSDGsを例に挙げることで、現代社会が抱える問題の構造的ジレンマを浮き彫りにしています。これは、善意の目標同士が互いに矛盾し合う「正解のない時代」において、安易な二元論的思考がいかに無力であるかを論証するものです。

・水平思考と垂直思考は、状況や目的に応じて、適切に使い分け、あるいは併用することが大切です。

・⽀援職は、この簡単には崩れない構造の中でも、最⼤限対象者が望むことを実現できるようかかわらなければなりません。そして⼤事なのは、あきらめて⾔いなりになることなく、組織や発注元に対する説得や、時には社会への発信をするなど、簡単に解決できないとわかっていても働きかけ続けることです。

・支援者が陥りがちな第一印象の罠に対し、本書は実現不可能な理想論(=先入観を持つな)ではなく、極めて実践的な処方箋を提示します。

・さらにいえば、「本当のこと」よりも、対象者から見えている景色の方が大事だからです。ここでは、対象者の言葉を「信じること」と「疑うこと」の間に留まり続けるネガティブ・ケイパビリティが求められます。

・⾃分の完璧でないところ、苦⼿なところも、園児に⾒せるようにしています。「先⽣=完璧」ではないからです。(中略)失敗しても間違えても、(そこから学んで)もう1回やればいいということをわかってほしい気持ちがだんだんと強くなってきました。

あえて答えを出さず、そこに踏みとどまる力‐保留状態維持力対人支援に活かす ネガティブ・ケイパビリティ(2024)
田中 稔哉 (著)、日本能率協会マネジメントセンター
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